現場仕事と仲間のこととか、たまにイデオロギー的なことをつれづれに。
読んだ本、すきな音楽やライブのことだとか。
脈絡無く戯言を書き殴る為の、徒然草。
2010/11/29/Mon
あ、こぼしてる。
そんな言葉と共に伸びてきた彼の手が、あたしの顎に触れた。その指先に付いたクリームを、ごく自然に自分の口に入れる。何の躊躇いも無く。
あたしは何だかすごく恥ずかしくなって、何も云えなかった。一人で食べていたクレープをこぼしていたというお子様な行動が恥ずかしかったのもあるし、街中で誰の目も憚らずに恋人の顔に付いたクリームを口に運ぶという彼の行動事態も何だか恥ずかしく思えた。
「なしたん、」
何も云えなくて少し俯いてしまったあたしに、彼は心底不思議そうな様子で声を掛けてくる。なんでもないよ、と強い調子で云うあたしに彼は、可愛い、って云って微笑んだ。
「いつかこどもが出来てもさ、きっとこうやって街を歩くんだろーな」
なんでもないことのように、ごく自然に彼は云う。
「カヨと娘がさ、クレープ頬張りながら、ふたりしてクリーム顔に付けてんの。おれ一人じゃ、面倒見切れないよ」
楽しそうに笑いながら彼は語った。
こども。むすめ。
あぁ、そうか。この人は、いつかあたしと結婚して、娘が出来たときのことを想像出来るんだな、とおぼろげに思った。そこに、信憑性や、現実味は伴っていなくても。
でも、何となくあたしは彼との間に出来るのは娘ではないような違和感を覚えた。何故だろう。息子だったら。息子だったら、あたしはふたりと仲良くできるの。
いや。今きっとあたしは、居もしない架空のムスメという女の存在に怯えたんだと思う。
何だか彼を、その女に半分取られたような気がして。
なんて、嫉妬深いんだろう。
ぜんぜん可愛い女じゃないよ、あたし。心の中でこんな黒い感情があるなんて、絶対彼に知られたくない。
あたしはいつも独り相撲をしている。
彼は、そんなあたしの気持ちなんてきっと考えたことはない。
いつも無責任に、思ったことを簡単に口に出した。一緒に住んだらこんな家具を置きたいだの、老後はふたりで旅行三昧の生活をしたいだの、今みたいに、ふたりの子供の話だのを。
それらを、悪びれることなく、ごく自然に、口に出すのだ。まだ、ハタチのクセに。
夢なんて、きっと若いうちのほうが語れて希望が持てるものなんだろう。現実味を帯びてくる年齢になると、きっと憚られ出す。
彼にとっての結婚の二文字は遠い未来の出来事で、それは三つ年上のあたしにとっても同じ次元だという認識なんだと思う。
けど実際は違うのよ。たぶん。
だってあたしは、年上の自分がどこかで彼をエスコートしてあげなきゃって、焦っているの。そう、例えば、ベッドの中で。
「焦んなくていいよ」
裸で抱き合ったまま、あたしは云った。
彼はセックスが不得意なんだろうな、と薄々思っていた。いつも身体を求めてくる素振りは見せるけれど、実際に射精に至るまで行為を続けられることはあまりなかった。そしてあたし自身も、彼の愛撫で満足出来ることは無い。
「うーん……やっぱり、疲れてんのかな、おれ」
勃起しても上手く繋がれないことに、彼は焦っていた。
あたしはそんなことはあまり気にならなかった。どちらかというと、ただ肌をくっつけている時間が長い方がすきだから。愛撫やセックスという行為そのものよりも。女の子は、大抵そういうものだとあたしは思っている。
それに彼の愛撫は単調で、自分本位な気さえしていた。
いや、彼だけじゃない。今まで付き合ってきた男はみんなそうだった。自分の勃起に合わせたリズムでしか指を動かせない、でもそれは人間なんだからしょうがない。あたしだって、相手が何をすれば気持ち良くって、何をすれば満足かなんて、判らないのだから。
それに、こういうことは言葉で聞いても意味がないのだ。気持ちいい、って聞かれたとしても、ノーとは答えられないし、自分のして欲しいことなんて崖から飛び降りるくらい勇気の要ることで、とても自分の口からは語れない。
身体の相性なんてものが本当にあるのだとしたら、あたしたちは悪いのかもしれない。若しくは、あたしの女としての魅力が、足りないのかもしれない。
でも、それらを原因にはしたくなかった。
彼がまだ若いから。経験が浅いから。最近は刺激の強い自慰のための動画が世の中に溢れかえっているから。そう思って、気にしないようにしてた。
「じっとしてて。あたしが、気持ちよくしてあげる」
疲れてる、と云った彼の代わりに、今度はあたしが被さった。彼が痛くないように、角度に気をつけながらゆっくりと動く。世の中の男の人は、どうしてあんなにも激しく腰を振れるのだろう、とヘンなところで感心してしまった。あたしには、一生真似出来そうにない。
「カヨちゃん、カヨちゃん」
少し苦しそうな声が聞こえた。彼は、セックスのときだけあたしの事をカヨちゃんと呼んだ。なぁに、と優しい声で尋ねてみると、ちょっと痛い、と返ってきて慌てて動きを止める。そして落ち込むあたしに彼は追い討ちを掛けた。
「あとね、もうちょっと、ぎゅって締められないかな」
思い遣りは何処まで、いつ、出せばいいのだろう。
でもきっと、恋人関係のときに出せる思いやりなんて、二人で過ごすはずの甘い時間でしか、推し量れないような気がするのだ。
そう、例えば、ベッドの中で。
○ ◎ ○
「あいを確認する行為」
そんな言葉と共に伸びてきた彼の手が、あたしの顎に触れた。その指先に付いたクリームを、ごく自然に自分の口に入れる。何の躊躇いも無く。
あたしは何だかすごく恥ずかしくなって、何も云えなかった。一人で食べていたクレープをこぼしていたというお子様な行動が恥ずかしかったのもあるし、街中で誰の目も憚らずに恋人の顔に付いたクリームを口に運ぶという彼の行動事態も何だか恥ずかしく思えた。
「なしたん、」
何も云えなくて少し俯いてしまったあたしに、彼は心底不思議そうな様子で声を掛けてくる。なんでもないよ、と強い調子で云うあたしに彼は、可愛い、って云って微笑んだ。
「いつかこどもが出来てもさ、きっとこうやって街を歩くんだろーな」
なんでもないことのように、ごく自然に彼は云う。
「カヨと娘がさ、クレープ頬張りながら、ふたりしてクリーム顔に付けてんの。おれ一人じゃ、面倒見切れないよ」
楽しそうに笑いながら彼は語った。
こども。むすめ。
あぁ、そうか。この人は、いつかあたしと結婚して、娘が出来たときのことを想像出来るんだな、とおぼろげに思った。そこに、信憑性や、現実味は伴っていなくても。
でも、何となくあたしは彼との間に出来るのは娘ではないような違和感を覚えた。何故だろう。息子だったら。息子だったら、あたしはふたりと仲良くできるの。
いや。今きっとあたしは、居もしない架空のムスメという女の存在に怯えたんだと思う。
何だか彼を、その女に半分取られたような気がして。
なんて、嫉妬深いんだろう。
ぜんぜん可愛い女じゃないよ、あたし。心の中でこんな黒い感情があるなんて、絶対彼に知られたくない。
あたしはいつも独り相撲をしている。
彼は、そんなあたしの気持ちなんてきっと考えたことはない。
いつも無責任に、思ったことを簡単に口に出した。一緒に住んだらこんな家具を置きたいだの、老後はふたりで旅行三昧の生活をしたいだの、今みたいに、ふたりの子供の話だのを。
それらを、悪びれることなく、ごく自然に、口に出すのだ。まだ、ハタチのクセに。
夢なんて、きっと若いうちのほうが語れて希望が持てるものなんだろう。現実味を帯びてくる年齢になると、きっと憚られ出す。
彼にとっての結婚の二文字は遠い未来の出来事で、それは三つ年上のあたしにとっても同じ次元だという認識なんだと思う。
けど実際は違うのよ。たぶん。
だってあたしは、年上の自分がどこかで彼をエスコートしてあげなきゃって、焦っているの。そう、例えば、ベッドの中で。
「焦んなくていいよ」
裸で抱き合ったまま、あたしは云った。
彼はセックスが不得意なんだろうな、と薄々思っていた。いつも身体を求めてくる素振りは見せるけれど、実際に射精に至るまで行為を続けられることはあまりなかった。そしてあたし自身も、彼の愛撫で満足出来ることは無い。
「うーん……やっぱり、疲れてんのかな、おれ」
勃起しても上手く繋がれないことに、彼は焦っていた。
あたしはそんなことはあまり気にならなかった。どちらかというと、ただ肌をくっつけている時間が長い方がすきだから。愛撫やセックスという行為そのものよりも。女の子は、大抵そういうものだとあたしは思っている。
それに彼の愛撫は単調で、自分本位な気さえしていた。
いや、彼だけじゃない。今まで付き合ってきた男はみんなそうだった。自分の勃起に合わせたリズムでしか指を動かせない、でもそれは人間なんだからしょうがない。あたしだって、相手が何をすれば気持ち良くって、何をすれば満足かなんて、判らないのだから。
それに、こういうことは言葉で聞いても意味がないのだ。気持ちいい、って聞かれたとしても、ノーとは答えられないし、自分のして欲しいことなんて崖から飛び降りるくらい勇気の要ることで、とても自分の口からは語れない。
身体の相性なんてものが本当にあるのだとしたら、あたしたちは悪いのかもしれない。若しくは、あたしの女としての魅力が、足りないのかもしれない。
でも、それらを原因にはしたくなかった。
彼がまだ若いから。経験が浅いから。最近は刺激の強い自慰のための動画が世の中に溢れかえっているから。そう思って、気にしないようにしてた。
「じっとしてて。あたしが、気持ちよくしてあげる」
疲れてる、と云った彼の代わりに、今度はあたしが被さった。彼が痛くないように、角度に気をつけながらゆっくりと動く。世の中の男の人は、どうしてあんなにも激しく腰を振れるのだろう、とヘンなところで感心してしまった。あたしには、一生真似出来そうにない。
「カヨちゃん、カヨちゃん」
少し苦しそうな声が聞こえた。彼は、セックスのときだけあたしの事をカヨちゃんと呼んだ。なぁに、と優しい声で尋ねてみると、ちょっと痛い、と返ってきて慌てて動きを止める。そして落ち込むあたしに彼は追い討ちを掛けた。
「あとね、もうちょっと、ぎゅって締められないかな」
思い遣りは何処まで、いつ、出せばいいのだろう。
でもきっと、恋人関係のときに出せる思いやりなんて、二人で過ごすはずの甘い時間でしか、推し量れないような気がするのだ。
そう、例えば、ベッドの中で。
○ ◎ ○
「あいを確認する行為」
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自己紹介:
二十代半ば(から始めたこのブログ・・・2014年現在、三十路突入中)、大阪市東成区出身。
乗り物の整備をしている、しがないサラリーマン。
3度の飯より睡眠、パンクなライブ、電車読書、などを好む。
この名前表記のまま、関西小劇団で素人脚本家として細々と活動中でもある。
1997年頃~2006年ごろまで、「ハル」「サワムラハル」のHNで創作小説サイトで細々とネットの住民してたがサーバーダウン&引越しによるネット環境消滅が原因で3年ほど音信不通に。。。
あの頃の自分を知っているヒトが偶然にもここを通りかかるのはキセキに近いがそれを願わずにはいられない。
乗り物の整備をしている、しがないサラリーマン。
3度の飯より睡眠、パンクなライブ、電車読書、などを好む。
この名前表記のまま、関西小劇団で素人脚本家として細々と活動中でもある。
1997年頃~2006年ごろまで、「ハル」「サワムラハル」のHNで創作小説サイトで細々とネットの住民してたがサーバーダウン&引越しによるネット環境消滅が原因で3年ほど音信不通に。。。
あの頃の自分を知っているヒトが偶然にもここを通りかかるのはキセキに近いがそれを願わずにはいられない。
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