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現場仕事と仲間のこととか、たまにイデオロギー的なことをつれづれに。 読んだ本、すきな音楽やライブのことだとか。 脈絡無く戯言を書き殴る為の、徒然草。
2024/05/19/Sun
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2010/11/27/Sat
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。


いつも慌てて心の中で唱えた。

その瞬間、神とかいう抽象的な存在に、こころを見透かされているような気がしたのだ。



ハルコさんなんて、今すぐ死んでしまえばいい。



そう強く思った、瞬間に。


「あたし、本当に死ぬかもしれないのよ」

何言ってんだ、今更。
そう思った。
ハルコさんは、少し怯えていた。
癌らしい。
それは手術が必要で、オペの日には家族の同行が必要らしかった。

それらは後になって知ったことだが、言われなくてもそんなこと、何となく判っていた。


それがどうしたの?

いつもあんたがやってた報いがきただけやん。


「あたしがいないと、何にもやらないクセに」


間違ってないよ。

「やらない」けど「出来ない」わけじゃないことは、この人が一番よく知っている。

だって自分が、何でも出来る子供に育ててしまったんだから。


台所でもたもたしているハルコさんに、早く行きなよ。と追い立てた。



その時にはじめて、この人は自ら「死」を口にしたのだ。



この後ろ姿を見るのが、最後になるかもしれない。


絶望とも安堵ともつかない、混沌とした感情が渦巻いていた。

背中から、目を離した。


出来るだけ、何も、覚えていたくない。

帰って来ないなら、こんなにありがたいことはないじゃないか。


そう、強く思った。


最初から判ってたことだ。

案外長引いてしまったけれど、今日でやっと、さよならできるんだ。



これはあくまでも結果であって、あの人がやってきた事への今までの報いなのだ。

生まれ育った家族を捨て、自ら作り上げようとした家庭を打ち壊してしまった事への、報いなのだ。



誰にも看取られずに、悲しみの中で死ねばいい。





それから、穏やかな日々が流れた。

ハルコさんのいない日常は、こんなにも落ち着いていて、緩やかに流れるものなのかと思った。


もうずっと、こうして暮らしてきたかのような錯覚に陥る。

ぜんぶ、夢だったんじゃないだろうか。

ハルコさんと暮らした11年間の、ぜんぶ。



電話が鳴った。

もうこの家は、「沢村さん」家じゃなくなったんだ。

電話には、出る必要がなくなった。


鳴り響く呼び出し音を数えながら、電話機を見つめ続けた。


何コールか目で電子音の甲高い音が鳴り、留守番電話の音声に切り替わる。

お決まりの常套句。
その後に、聞き慣れない声が聞こえてきた。


「ちょっと、誰もいないの?電話ぐらい出なさいよ!言い忘れてたことなんだけど、……」


声は、冷凍庫の中には作りかけのおかずがあって、といったことを長々と語りだした。


何言ってんだ、この人。


そう思ったけれど、おれは静かに電話機に近づいて、録音ボタンをプッシュした。


テープが巻き取られていく。

録音可能な限り、回った。


電話が切れると同時に停止ボタンを押し、そのテープを取り出し、ひっくり返した。





○ ◎ ○


案外、人生も精神も、タフなものです。

まだ生きているのですよ、無駄に。



16年前の、いつかの日の出来事。

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二十代半ば(から始めたこのブログ・・・2014年現在、三十路突入中)、大阪市東成区出身。
乗り物の整備をしている、しがないサラリーマン。
3度の飯より睡眠、パンクなライブ、電車読書、などを好む。
この名前表記のまま、関西小劇団で素人脚本家として細々と活動中でもある。

1997年頃~2006年ごろまで、「ハル」「サワムラハル」のHNで創作小説サイトで細々とネットの住民してたがサーバーダウン&引越しによるネット環境消滅が原因で3年ほど音信不通に。。。
あの頃の自分を知っているヒトが偶然にもここを通りかかるのはキセキに近いがそれを願わずにはいられない。
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