ガソスタで給油し終わり、さっさと家帰ろーと思ってキックを勢いよく蹴った瞬間だった。
今しがた給油してくれたサービススタッフがなんか云っている。
え? と聞き返すと、フロント・タイヤを指さして、もう一度はっきりと云った。
「タイヤ、圧入れなくて大丈夫ですか?」
瞬間的に顔が紅潮するのがわかった。
聞かれなくても解ってるんですよ。ヤバイってことくらい。
なんせ、引越ししてからの半年間、全く単車をメンテに出していない。
見知ったバイク屋が遠くなった所為で何処となく行くのが億劫になって、かといって家帰ってからもまた自分の単車をいじる気にもなれず、ずるずるとここまできてしまったのだ。その上、新居の近くにはこれと云ってバイク屋を見かけない。
最近、燃費があからさまに悪くなったのは自分でも感じていた。
原因は、粗悪なオイルの状態。それに、空気圧の無さ。
日々そのことが気がかりで、タイヤの磨耗度合いとオイルが干からびてしまわないことだけをただ祈りながら走っていたのだから。
そんなこっちの心の内など知る由もないスタッフは、手際よく単車を誘導しエアーを供給しだす。
あれ? この店、バイクに合う口無いって云ってなかったけ?
「僕も前、グラストラッカーに乗ってたんですよ。」
なんの迷いも無く、さらりと彼は云った。
手はポンプを握り、視線はプレッシャーゲージに落としたまま。
へー。なるほど。
と思った。だって、この単車の外見を見ただけですぐにグラストラッカーだと云い当てた。
そりゃ大したカスタムをしているわけじゃないから、当然かも知れないが。
でも、お決まりのマフラー、テイルランプ、ミラーは純正部品ではないし、ノーマル仕様ではないキック・スタートタイプ。おまけにエンジンは別の型番のものに乗せ変えている。
何より一番目を疑うのは、車体全部のペイントを剥がして塗り替えていること。
それも、中学生の不良が塗装したような趣味の悪い真緑。その上に、ところどころシルバーの星が飛び散っている。
「また、いつでも云ってください。今は、昔と違ってバイクも対応できるやつ入れてるんで」
以前グラトラに乗ってたというサービススタッフは笑顔で云った。
私は礼を重ねて云いながらエンジンをふかし、タイヤ圧チェック:¥50/1本、と書かれたポスターの前を通り抜けた。
月嘩
サワムラの主催する小劇団…のはず。2012年に旗揚げ公演を行い、2014年現在、5月公演に向けて準備中。
きょう
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乗り物の整備をしている、しがないサラリーマン。
3度の飯より睡眠、パンクなライブ、電車読書、などを好む。
この名前表記のまま、関西小劇団で素人脚本家として細々と活動中でもある。
1997年頃~2006年ごろまで、「ハル」「サワムラハル」のHNで創作小説サイトで細々とネットの住民してたがサーバーダウン&引越しによるネット環境消滅が原因で3年ほど音信不通に。。。
あの頃の自分を知っているヒトが偶然にもここを通りかかるのはキセキに近いがそれを願わずにはいられない。