現場仕事と仲間のこととか、たまにイデオロギー的なことをつれづれに。
読んだ本、すきな音楽やライブのことだとか。
脈絡無く戯言を書き殴る為の、徒然草。
2009/06/10/Wed
ウィンドウの外の景色が加速する。緑が視界の後ろへ後ろへと流れていく。
サキヤマは助手席でずっと黙り込んでいた。表情に色は無い。窓の外に視線を投げて、肩から回したシートベルトが細身の身体を締め付けていて窮屈そうだ。
「ホンダ、ドライブ行こう」
一週間前。夜勤の休憩時間、だだっ広い社員食堂でひとりポツンと弁当を食っているとき、ふらりと入ってきたサキヤマが突然云った。
「・・・・・・いいけど。」
サキヤマは同期入社から3年間、ずっと一緒に仕事をしてきた仲間だ。2年前、配属が分かれてからは顔を合わせることも連絡を取ることも少なくなっていたが。
ぶっきらぼうに答えたが、なんかあったことは直ぐに解った。
いくら同期で、一日の大半仕事という共通の時間を共有していたとはいえ、なんかちょっと可笑しかった。ふたりで、俺の車で、息吹山ドライブウェイにいるなんて。
「楽しい、」
十三万で付けて貰ったナビを切り替えながら、最小限の言葉で彼女に問う。
暫く間が空いて、まあね、と返事が来た。視線は、外に向いたまま。こっちを見ようとは、しない。
「無理しちゃって」
思わず言葉が出た。
「俺じゃ、埋まらんだろ。その、心の孔は」
サキヤマは答えなかった。でも、それが答えだと思った。
少し、淋しい。
自分の存在価値が無いって云われたような気がしたからではなくて、これはきっとサキヤマのこころだと思った。誰といても、何をしていても埋まることの無い、ぽっかりとこころに空いた穴を持つ、サキヤマが哀しかった。
「泣いたら。俺、なんもできねーけど」
「莫迦、泣かねーよ。おまえの前でなんて」
一応の優しい言葉をかけた俺に、いつもの調子で憎まれ口を叩く。いつものガサツな言葉遣いが、なんだか今日は心地いい。
きっとサキヤマは、ひとりの部屋で泣いていた。声を押し殺して、枕に顔を埋めて、隣りの部屋に嗚咽が漏れてしまわないように、泣いたんだろう。
「つかさ、鍾乳洞入ったら、置いて行かんでな」
声が少し震えてる気がした。入社当時に呼ばれていた、下の名前で呼ばれている。きっとサキヤマはそのことに気付いていない。振り返らないようにした。運転だけに集中して、流れていく前方の景色を見る。彼女の、赤い眼を見たくない。
俺はサキヤマには何もしてやれない。抱きしめることも、慰めの言葉を掛けることさえも。だって、それらの行為には意味を持たないから。
出来るのはただ、一緒にいて、隣りで同じ時間を共有することだけ。
だから、うん、とだけ小さく答えた。聞こえなくてもいいような声で。小さく。
そして、サキヤマの哀しみが、少しでも早く小さくなることを心の中で願った。
サキヤマは助手席でずっと黙り込んでいた。表情に色は無い。窓の外に視線を投げて、肩から回したシートベルトが細身の身体を締め付けていて窮屈そうだ。
「ホンダ、ドライブ行こう」
一週間前。夜勤の休憩時間、だだっ広い社員食堂でひとりポツンと弁当を食っているとき、ふらりと入ってきたサキヤマが突然云った。
「・・・・・・いいけど。」
サキヤマは同期入社から3年間、ずっと一緒に仕事をしてきた仲間だ。2年前、配属が分かれてからは顔を合わせることも連絡を取ることも少なくなっていたが。
ぶっきらぼうに答えたが、なんかあったことは直ぐに解った。
いくら同期で、一日の大半仕事という共通の時間を共有していたとはいえ、なんかちょっと可笑しかった。ふたりで、俺の車で、息吹山ドライブウェイにいるなんて。
「楽しい、」
十三万で付けて貰ったナビを切り替えながら、最小限の言葉で彼女に問う。
暫く間が空いて、まあね、と返事が来た。視線は、外に向いたまま。こっちを見ようとは、しない。
「無理しちゃって」
思わず言葉が出た。
「俺じゃ、埋まらんだろ。その、心の孔は」
サキヤマは答えなかった。でも、それが答えだと思った。
少し、淋しい。
自分の存在価値が無いって云われたような気がしたからではなくて、これはきっとサキヤマのこころだと思った。誰といても、何をしていても埋まることの無い、ぽっかりとこころに空いた穴を持つ、サキヤマが哀しかった。
「泣いたら。俺、なんもできねーけど」
「莫迦、泣かねーよ。おまえの前でなんて」
一応の優しい言葉をかけた俺に、いつもの調子で憎まれ口を叩く。いつものガサツな言葉遣いが、なんだか今日は心地いい。
きっとサキヤマは、ひとりの部屋で泣いていた。声を押し殺して、枕に顔を埋めて、隣りの部屋に嗚咽が漏れてしまわないように、泣いたんだろう。
「つかさ、鍾乳洞入ったら、置いて行かんでな」
声が少し震えてる気がした。入社当時に呼ばれていた、下の名前で呼ばれている。きっとサキヤマはそのことに気付いていない。振り返らないようにした。運転だけに集中して、流れていく前方の景色を見る。彼女の、赤い眼を見たくない。
俺はサキヤマには何もしてやれない。抱きしめることも、慰めの言葉を掛けることさえも。だって、それらの行為には意味を持たないから。
出来るのはただ、一緒にいて、隣りで同じ時間を共有することだけ。
だから、うん、とだけ小さく答えた。聞こえなくてもいいような声で。小さく。
そして、サキヤマの哀しみが、少しでも早く小さくなることを心の中で願った。
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プロフィール
HN:
サワムラヨウコ
自己紹介:
二十代半ば(から始めたこのブログ・・・2014年現在、三十路突入中)、大阪市東成区出身。
乗り物の整備をしている、しがないサラリーマン。
3度の飯より睡眠、パンクなライブ、電車読書、などを好む。
この名前表記のまま、関西小劇団で素人脚本家として細々と活動中でもある。
1997年頃~2006年ごろまで、「ハル」「サワムラハル」のHNで創作小説サイトで細々とネットの住民してたがサーバーダウン&引越しによるネット環境消滅が原因で3年ほど音信不通に。。。
あの頃の自分を知っているヒトが偶然にもここを通りかかるのはキセキに近いがそれを願わずにはいられない。
乗り物の整備をしている、しがないサラリーマン。
3度の飯より睡眠、パンクなライブ、電車読書、などを好む。
この名前表記のまま、関西小劇団で素人脚本家として細々と活動中でもある。
1997年頃~2006年ごろまで、「ハル」「サワムラハル」のHNで創作小説サイトで細々とネットの住民してたがサーバーダウン&引越しによるネット環境消滅が原因で3年ほど音信不通に。。。
あの頃の自分を知っているヒトが偶然にもここを通りかかるのはキセキに近いがそれを願わずにはいられない。
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